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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)156号 判決

(争いのない事実)

一 特許庁における手続の経緯、本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本件登録意匠の要旨の認定及び本件登録意匠の意匠登録出願前に国内において広く知られた編棒の形状についての認定を誤り、かつ、意匠法第三条第二項の解釈を誤つた結果、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において、違法として取り消されるべきである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり、すべて理由がないものというべきである。

1 要旨認定の誤りの有無について

成立に争いのない甲第二号証(意匠公報)によれば、本件登録意匠は、意匠に係る物品を「編棒」とし、その内容は別紙(一)に示したとおりのものであつて、その要旨は、細長い丸棒状で、その両先端部に尖鋭にして軸径と同一の太さの同一形状のかぎ部が同じ向きに形成された編棒という点にあるものと認められる。原告は、本件登録意匠の要旨は、(1)軸径対全長が約一対五八の丸棒体であつて、(2)該丸棒体の軸部は全長にわたつて同一太さであり、(3)該丸棒体の両先端が尖鋭になつていて、(4)該丸棒体の両端にかぎ部を有し、(5)該両かぎ部は、(ⅰ)同一形状で、(ⅱ)軸部と同一太さで、(ⅲ)かぎ部の先端部が軸部の同一面側(同一向き)にある両かぎ編棒に存するものであつて、本件審決は、本件登録意匠の要旨の認定を誤つた旨主張するが、意匠の要旨とは、当該意匠の内容を特定する事項をいうものと解すべきところ、本件登録意匠の内容は前認定の要旨により特定するに十分であつて、原告が本件登録意匠の要旨として主張するところは、右本件登録意匠の要旨の一部を更に詳細に表現しているにすぎないから、前認定の要旨と同趣旨の本件審決の要旨認定に誤りがあるものということはできず(なお、本件審決認定の要旨は両先端部のかぎ部が同一形状であることについて特に触れるところはないが、同趣旨に認定したものと解されるし、そうでないとしても、この点は本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことは明らかである。)、したがつて、原告の右主張は採用することができない。

2 本件登録意匠の創作の容易性についての判断の誤りの有無について

成立に争いのない甲第五号証(株式会社婦人画報社発行(昭和三六年七月一五日発行)に係る藤田俊子著「あたらしいアフガン編み500種」。乙第一号証はその一部)中の第四三頁所載の写真中下の段の写真部分(引用意匠)並びに証人武藤千代子の証言及び原告本人尋問の結果(後記措信しない部分は除く。)によれば、本件登録意匠の意匠登録出願前において、丸棒状の軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、その一端に、別紙(二)の図面のとおり、軸径と同一の太さの先端部か尖鋭なかぎ部を形成した編棒(アフガン針)が日本国内で広く知られていたことが認められる。また、前掲甲及び乙号証によれば右各号証中第四四頁最上欄には「この他に最近もつとも新しいテクニツク用として、両方にカギのある両頭を作らせて使つています。」、同第五八頁最上欄の「両面編みの編み方」の項には、「両頭針を使う場合、アフガン針の鉤が左右共にある針を使います。」との各記載があり、同じく第一一八頁下欄には、「ツインリレーアフガン(両面)(両鉤使用)」という項があり、両かぎアフガン針による編み方の記載があることが認められ、証人藤田千代子の証言によれば、同証人は、前記「新しいアフガン編500種」の著者である藤田俊子の門下生で、昭和二六年頃からアフガン編を始め、現在では、日本編物技能検定協会の大阪府支部副支部長、日本編物文化協会の理事の職にあり、編物教室を開設している者であるところ、前記「新しいアフガン編500種」の発行に協力した関係から、その発行の直後から全国各地で開催された右本の普及とアフガン編の指導のための講習会のうち一〇個所位の会場に指導者として参加し、片鉤のアフガン針のほか、両端に同じ大きさの同一方向を向いたかぎがついた、全体的に同一の太さの編棒、すなわち両かぎアフガン針を用いてアフガン編の指導を行い、その際、両鉤アフガン針の展示販売を行つていたことを認めることができ、更に、成立に争いのない乙第二号証ないし第四号証の各二によれば、洋装産業新聞社発行の昭和三六年七月二五日付、同年九月一五日付及び昭和四二年四月五日付の洋装産業新聞の広告欄に軸径をかぎ部の付近まで同じ太さとし、両端部に同一形状のかぎ部を有し、その向きを同じくする編針の広告が掲載されていることが認められ、右各事実を総合すれば、本件登録意匠の意匠登録出願前において、本件審決認定のとおり軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、その両端部にかぎ部を有する編棒が日本国内において広く知られていただけでなく、右かぎ部が同一形状で同じ向きに形成された編棒も実在し、広く知られていたことが認められる。原告は、本件審決が認定した、軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、両先端部にかぎ部を有する編棒は、本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内に存在しておらず、周知のものでもない旨主張し、原告本人尋問の結果中には、右主張に添う供述部分が存するが、右供述部分は前認定の事実に照らし信用することができず、また、この点に関する検甲第一号証も前認定を覆すに足りず、その他この認定を動かすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、本件登録意匠は、その意匠登録出願前から日本国内において広く知られていた、軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、その両端部にかぎ部を有する編棒におけるかぎ部の形状を、同様に本件登録意匠の意匠登録前に日本国内で広く知られていた軸径と同一の太さの先端部が尖鋭なかぎ部(前掲甲第五号証の第四三頁所載の写真中下の段の写真部分の編棒の先端部の形状、すなわち引用意匠)を形成する編棒のかぎ部の形状とし、その場合、両端のかぎ部を同一形状とし同じ向きに組み合わせたにすぎず、しかも、前認定のとおり本件登録意匠の意匠登録出願前に編棒においてかぎ部を同一形状、同一方向に形成したものが広く知られている点をも考慮すると、本件登録意匠は、その属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものとみるのが相当である。なお、原告は、本件審決が、本件登録意匠は、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当すると判断したことについて、右規定は、日本国内において広く知られた形状、模様等を取り入れたり、取り入れる際の変形が単なる商業的変形にすぎなかつたり、非類似物品間の意匠の転用であつたりするような事例に関するものであつて、複数事項を寄せ集めてこれを本件登録意匠の意匠登録出願前国内において広く知られた形状(いわゆる周知形状)とし、該周知形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたとするようなことは、右規定の解釈として許されるべきではない旨主張するが、本件審決の趣旨は、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に周知の、軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、その両先端部にかぎ部を有する編棒のかぎ部の形状を、同じく周知の、軸径と同一の太さの先端が尖鋭なかぎ部を呈する編棒のかぎ部の形状とし、その組合せに当たり編棒の両端のかぎ部の形状を同一形状、同一方向にしたにすぎず、したがつて、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に創作をすることができたものとしたのであつて、右判断は、意匠法第三条第二項の規定に違反するものではなく、原告の右主張は、本件審決の趣旨とするところを誤解したか、又は右意匠法の規定についての独自の見解に依拠するものであつて、採用することができない。

(結語)

三 よつて、本件審決には原告主張の違法はないから、その取消しを求める原告の本訴請求は、失当として棄却する。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「編棒」とする別紙(一)記載の登録第五四三八二七号意匠(昭和四二年九月二六日意匠登録出願、昭和五五年八月二八日登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者であるが、被告は、原告を被請求人として、昭和五七年一月二〇日、本件登録意匠の登録無効の審判を請求し、昭和五七年審判第一五八三号事件として審理された結果、昭和六一年五月一五日、「本件登録意匠の登録を無効とする。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年六月四日原告に送達された。

二 本件審決理由の要点

請求人(被告)は、「本件登録意匠の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において広く知られた形状(本件登録意匠の意匠登録出願前に国内において頒布された刊行物である株式会社婦人画報社発行(昭和三六年七月一五日発行)に係る藤田俊子著「あたらしいアフガン編500種」に記載された意匠。以下「引用意匠」という。)に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第三条第二項の規定に該当し、更に、武藤千代子の証明書及び同人の証言事実により、容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第三条第二項の規定に該当し、その登録を無効とすべきものである旨の主張をし、その主張事実を立証するため、甲第一号証(引用意匠)及び第二号証を提出した。被請求人(原告)は、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人(被告)は、本件登録意匠は甲第一号証の刊行物に記載された意匠から容易に創作できたものであり、意匠法第三条第二項の規定に該当すると述べているが、これはその基となる上記刊行物の記載事実を誤つて理解しているものであり、また同法第三条第二項の規定を誤解しているもので、該規定は、日本国内において広く知られた形状、模様等を取り入れたり、取り入れる際の変形が単なる商業的変形にすぎなかつたり、非類似物品間の意匠の転用であつたりするような事例に関するものであつて、請求人(被告)のいうような事例には当たらないものであるから、請求人(被告)主張のような意匠をもつてしては該規定は適用され得ないのである。しかも、請求人(被告)主張のような複数の記載事項を寄せ集めるようなことは、該規定の解釈として許されるべきでない。また、上記周知形状、模様等は、その形態が明確なものであつて、これを具体的に特定できるものでなければならないが、上記請求人(被告)主張の意匠は、終始不明確であつてこれを具体的に把握できないものであるから、上記周知形状、模様等には当たらないと述べ、証人武藤千代子が、文部省認定日本編物技能検定協会大阪府支部副支部長、日本編物技能検定審査委員及び社団法人日本編物文化協会大阪府第三九支部長の要職にあり、更に、編物デザイナーであるとともに武藤編物手芸研究会の代表者として、大阪府豊中市の数個所の教室において編物の指導をしていること、及び甲第二号証(武藤千代子の証明書)に記載のとおり、本件登録意匠の意匠登録出願以前である昭和三六年には、両端に同じ大きさで同一方向のかぎがつき、全体的に同一の太さよりなる編針、すなわち両かぎアフガン針が、全国各地の編物の講習会で展示されるとともに頒布され、かつ、使用されているとの事実、更に、証人武藤千代子が証明書(甲第二号証)に記載している事項はすべて不知である旨の主張をした。

ところで、本件登録意匠は、昭和四二年九月二六日、意匠に係る物品を「編棒」として意匠登録出願し、昭和五五年八月二八日に意匠登録を受けたものであつて、その意匠の内容は、別紙(一)に示したとおりのものと認める。これに対し、引用意匠は、請求人(被告)が甲第一号証として提出した、本件登録意匠の意匠登録出願前に発行されたものと認められる株式会社婦人画報社発行(昭和三六年七月一五日発行)に係る藤田俊子著「あたらしいアフガン編500種」第四三頁所載の下欄の写真中編針の先端部の意匠であつて、その意匠の内容は、別紙(二)に示したとおりのものと認める。そこで、両意匠を検討するに、本件登録意匠は、その意匠の内容が別紙(一)に示されるとおりのものであつて、その要旨が、細長い丸棒状の両先端部が尖鋭にして軸径と同一の太さにしたかぎ部が同じ向きに形成されたものである。ところで、本件登録意匠の意匠登録出願前に国内において、編棒の分野において、軸径をかぎ部付近まで同一の太さとしたものは例を掲げるまでもなく広く知られていることは論をまたないところである。また、アフガン編の編棒に限らず、軸径の大小あるいは軸の形状に関係なく編棒の両先端部にかぎ部を有する編棒の存在についても、そのかぎ部の向きが同一方向、反対方向とにかかわりなく、同じく極めて普通に知られていることは、引用意匠の写真版中上の段のかぎ部の向きの異なつた編棒を例示するまでもないところである。そうすると、本件登録意匠の意匠登録出願前、意匠に係る物品を編棒とする意匠の分野において、その意匠に係る形態のうち、軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、両先端部にかぎ部を有する編棒という点ではこの種の意匠の属する分野における通常の知識を有する者において広く一般化していたものといわざるを得ない。ところで、被請求人(原告)は、請求人(被告)の提出した刊行物掲載の引用意匠の形態について、その余の部位について不明確であつて、具体的に把握することができないものであるにもかかわらず、複数の記載事項を寄せ集めて意匠全体についていわゆる創作性がない旨の主張をする請求人(被告)の主張は、意匠法第三条第二項の規定を誤解しているものである旨主張している。しかしながら、上記の引用意匠のかぎ部の形態は、軸径と同一の太さの先端部が尖鋭なかぎ部を形成している点については明瞭に表わされているものであり、そうして、このかぎ部の形態については、少なくとも本件登録意匠の意匠登録出願前において広く知られているところのものであつて、請求人(被告)は、その一例として引用意匠を例示したものと解することが相当であり、しかも、請求人(被告)が主張するように、日本国内において広く知られた形状(引用意匠)を取り入れることによつて本件登録意匠の創作がなされたものであるとする態様の意匠であることは、特に当業者間においては別紙(一)に示される意匠の態様からみても首肯できるものである。また、請求人(被告)が複数の記載事項を寄せ集めて主張していると被請求人(原告)が主張する点については、請求人(原告)が述べているように、それぞれの事項について形態までも開示されているとすることは意匠の本質に徴し適当ではないとしても、それらの点が本件登録意匠の少なくとも意匠登録出願前においては当業者間において広く知られていたことであるとすることは理解できるものである。そうだとすると、本件登録意匠を全体として考察するに、その意匠に係る形態は、前記のとおりの態様のものであつて、その意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前より広く知られていたところの軸径を同一の太さとした細長い編棒の両先端のかぎ部を単に同一方向に向けて、これまた本件登録意匠の意匠登録出願前より広く知られていたところの軸径と同一の太さの先端部を尖鋭なかぎ部(引用意匠の先端部の意匠)に形成したにすぎないものであつて、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、その他の点について審理するまでもなく、本件登録意匠は、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当するものであり、その意匠登録は、同条第一項の各号列記以外の部分の規定に違反してなされたものであるから無効にすべきものとする。

三 本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本件登録意匠の要旨の認定及び本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内において広く知られた編棒の形状の認定を誤り、かつ、意匠法第三条第二項の解釈を誤つた結果、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において広く知られた編棒の形状に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において、違法として取り消されるべきである。すなわち、

本件登録意匠の要旨は、(1)軸径対全長が約一対五八の丸棒体であつて、(2)該丸棒体の軸部は全長にわたつて同一太さであり、(3)該丸棒体の両先端が尖鋭になつていて、(4)該丸棒体の両端にかぎ部を有し、(5)該両かぎ部は、(ⅰ)同一形状で、(ⅱ)軸部と同一太さで、(ⅲ)かぎ部の先端部が軸部の同一面側(同一向き)にある両かぎ編棒に存するものであつて、右構成要素(1)ないし(5)をもつて必須の構成要素とすべきものである。すなわち、本件登録意匠の要旨は、右構成要素(1)ないし(5)が結合一体化された形状にあるものと解すべきである。しかるに、本件審決は、本件登録意匠の要旨を「細長い丸棒状の両先端部が尖鋭にして軸径と同一の太さにしたかぎ部が同じ向きに形成されたものである。」と認定したものであつて、本件登録意匠の要旨の認定を誤つたものである。また、本件審決は、本件登録意匠の意匠登録出願前に国内において広く知られた編棒の形状について、「軸径をかぎ部付近まで同一の太さとし、両先端部にかぎ部を有する編棒という点ではこの種の意匠の属する分野における通常の知識を有する者において広く一般化していたものといわざるを得ない。」とし、また、「本件登録意匠の意匠登録出願前より広く知られていたところの軸径を同一の太さとした細長い編棒の両先端のかぎ部」と認定しているが、そのような編棒は、本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内に存在しておらず、もちろん、周知のものでもないのであつて、右認定は誤りである。更に、本件審決は、本件登録意匠は、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであつて、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当すると判断しているが、右規定は、日本国内において広く知られた形状、模様等を取り入れたり、取り入れる際の変形が単なる商業的変形にすぎなかつたり、非類似物品間の意匠の転用であつたりするような事例に関するものであつて、複数事項を寄せ集めてこれを本件登録意匠の意匠登録出願前国内において広く知られた形状(いわゆる周知形状)とし、該周知形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたとするようなことは、特許法第二九条第二項及び実用新案法第三条第二項に規定するいわゆる進歩性についての思考方法であり、発明や考案と全く異質のものを対象とする意匠法の特質に照らし、右規定をこのように解釈することは許されるべきではない。

第三 被告の答弁

被告訴訟代理人は、本訴請求の原因に対する答弁として、次ぎのとおり述べた。

一 請求の原因一及び二の事実は、認める。

二 同三の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告が主張するような違法の点はない。

原告主張の要旨は、本件登録意匠の要旨の一部をより詳細に表現しているにすぎず、本件審決の要旨の認定によつても、本件審決の結論に影響を及ぼすものではないので、原告の右主張は失当である。また、原告は、本件審決が認定した編棒は、本件登録意匠の意匠登録出願前に日本国内に存在しておらず、周知のものでもない旨主張するが、本件審決が認定した編棒は、編棒の分野における通常の知識を有する者において、広く知られていたものであり、本件審決の認定は正当であつて誤りはない。更に、原告は、本件審決は、複数事項を寄せ集めて周知形状としている旨主張しているが、右主張は、いかなる事項の寄せ集めなのか明確でなく、失当である。本件登録意匠が意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当することは本件審決認定のとおりであつて、このことは、本件登録意匠の意匠登録出願前に頒布された刊行物である株式会社婦人画報社発行(昭和三六年七月一五日発行)に係る藤田俊子著「新しいアフガン編500種」(乙第一号証)の第四三頁及び第四四頁に「アフガン針」という項があり、第四三頁の下欄の写真に編針の先端部の意匠が掲載され、第四三頁の最下欄に「竹製の棒針の一端が、カギ針型になつており、」との記載が、第四四頁最上欄に「この他に最近もつとも新しいテクニツク用として、両方にカギのある両頭を作らせて使つています。」との記載があり、また、その第五一頁ないし第五八頁には「アフガンの記号と編み方」の項があり、第五八頁最上欄の「両面編みの編み方」の項には、「両頭針を使う場合、アフガン針の鉤が左右共にある針を使います。」との記載が、更に、その第六五頁以降の模様編集のうち、第一一八頁ないし第一三三項には、「ツインリレーアフガン(両面)(面鉤使用)」という項があり、両かぎアフガン針による編み方の記載があることからも認められる。また、アフガン針は、もともと前記第四三頁の下欄の写真の編針の先端部の意匠に見られるように、細長い丸棒状の軸部の端部のかぎ部は、尖鋭で軸部と同一の太さであり、使用する毛糸の太さにより、針の太さを決めて使用するものであり、そうしたことから、前記の「両方にカギのある両頭」のアフガン針、「両頭針を使う場合、アフガン針の鉤が左右共にある針」及び「ツインリレーアフガン(両面)(両鉤使用)の両かぎアフガン針は、両端部にあるかぎの太さが同じであるのが当然であり、更に、「竹製」であるため、竹の表皮側を残してかぎの溝を作らねば強度が維持できなく、両端部のかぎの向きが同じであるのが当然である。したがつて、前記「新しいアフガン編500種」の記載から、本件登録意匠の意匠登録出願前に、「細長い丸棒状の両先端部が尖鋭にして軸径と同一の太さにしたかぎ部が同じ向きに形成された編棒」が実在し、広く使用されていたことは極めて容易に想定し得るところであり、本件登録意匠は、意匠法第三条第二項に規定した意匠に該当する意匠である。

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